写真02
ドイツ製のプッシュ式錠前
写真03
表から背面へ、継のない1枚の革で捲かれています
写真04
角部分も革がきれいに貼られています。
内張りはコットン素材です。
(写真04のモデルには内張内にクッションが
入っておりません)
写真05
本体タイプが違いますが、内部に
クッションを入れた状態です。
写真06
リュックタイプのPCトランク:
マウス下の間仕切りはクッション入りです。
写真07
フタ内部にポケットがついてます
|
素材と外観
今回の製品はヌメ革です。それも表から裏までを一枚で捲いた贅沢な作りです。(写真03参照)ヌメ革は革自体のシミや傷がはっきりと表面へ出てきます。育つ過程において付いた虫刺されや怪我の跡、焼き印等を避けてパーツ取りをします。そのために大きなパーツを取れる原皮は限られてきますし、ロスも多く出ます。そのため厳選を重ねて選ばれた素材を使うため、先ず素材の手配でかなりの時間を要します。
外観は素材の良さを引き立たせるため、オーソドックスな飾り気のないデザインです。シンプルに仕上げるために蓋は落とし込み型でサイドに継ぎ目が出ない様な作りにして、鍵もドイツ製のプッシュ式の物を採用しています。(写真01,02)
製作工程
トランク作りは先ず型枠作りから始まります。軽さと精度を求めるため桐で枠を作ります。よく乾燥させた桐板を組んでベースとなる型を作成します。胴の表裏面は強度が必要なら合板を使用し軽さが必要なら桐板と目的に合わせた材料を使用します。
型が出来たらこれに革を貼っていきます。特に難しいのはこの工程で、革の向きや微妙な厚み、部位で縮む方向や癖が変ってくるので、素材をよく観て貼っていきます。また、蓋の合わせ部分は皺や、閉めた状態での隙間が出来ない様に細心の注意を払いながら作業は進められます。
ここでは革張りのトランクで説明していますが、布・合皮・ナイロン・アルミ等、使用する条件やデザインに合わせ色々な素材が使われます。現金輸送車のジュラルミンケース、プリント生地を張った帽子ケース、アルミや合皮のコスメティックケース、プレハブ小屋程の中にクーラーまで付いた大型ケースから選挙の投票箱まで、箱型の運搬用ケースなら何でも作れます。各々の素材に合わせ、各々の技術があるのです。
革のケースに戻りますが、革はバッグになってからも生きています。湿度等により呼吸をします。内部の桐も一緒に呼吸をします。ですからバッグの内側に張る生地も呼吸ができる様な生地を選ばなくてはなりません。袋物の革バッグも内部はコットン等の呼吸ができる素材を使用する方がバッグのためには良いのです。写真のトランクも内部にはコットンの生地を張ってあります。
外装が出来ればいよいよ仕上げが近付きます。ハンドル等を本体に取付け最後に内装です。
内部はお客様の要望や入れる物に合わせて作ります。箪笥のような引出し付きや、先程も出たクーラー付き!? TV局等の撮影精密機器 etc・・・とにかく入る物に合わせた設計です。
では、ノートパソコン用に作ったトランクの詳細を見てみましょう。
縁の部分は、皺が出来ないように薄くすいて貼ってあります。(写真04)内部のPCを保護するため桐枠の内側にウレタンクッションを入れた状態が写真05です(写真は本体タイプが違いますが)。蓋の角のアールと縁の角のアールが綺麗に合わさってガタつきなくピッチリと閉まります。
内部にはウレタンクッションが入った間仕切りが付きます(写真06)。
これはドットボタンで着脱式になっています。クッションはPCのまわりを取り囲むよう全6面に入れられています。
衝撃吸収性についてですが、外部からショックがあった場合に先ず木枠全体が歪んで衝撃を受け止めます。次に木枠自体が吸収し最後に内部のクッションで吸収します。この3段階の衝撃吸収性により、見た目に頑丈そうな金属製のケースより内部へ伝わる衝撃は軽減されるのです。
また、外を覆っている革と内部の木枠が一緒に縫い合わされているため(つまり、革と木枠を貫通させてミシンをかけてあります)、革と木枠それぞれの強度が合わさり、非常に頑丈になっています。
豆知識:安く作る場合は縫目をつけた革を、木枠表面に糊付けします。もちろん強度は落ちます。見た目重視の物はこの作りが多いようです。
トップへ戻る>
内装は、蓋の内側にフルサイズのポケット1つとハーフサイズが2つあり、シンプルですが書類・CD等の収納に便利です(写真07)。
最近のノートPCは小さく出来ているので楽に収納できます。PCのまわりにも余裕がありケーブル等の収納に便利です。
外見のシンプルさを出すため、鍵はドイツ製のプッシュ式を採用しています(写真02)。指で押すとカチッと閉まります。
この手のハードなアタッシュケースには珍しく、ショルダーストラップも付けられます。着脱式で、外した時に本体側の金具はフラップで隠れる様デザインされています(写真07)。
このトランクは持った感じが絶妙です。しっかりと手の平に馴染む革捲きの把手は長時間持っても疲れ知らずです。
また、ショルダーベルトを付けることが可能で、本体の大きさとのバランスがとても良く、中に物が入った状態で肩にかけると非常に軽く感じられます。
通常ソフトケースの場合は、寝ている子供を抱くと重く感じるように、重心があちこち移動するため持ちにくく、また、ソフトゆえに歩調に合わせて上下方向へ力がかかりやすいので、重く感じられます。ハードケースの場合、肩からケース左右への三角形に重さが分散され、重心の移動もほとんどないためより軽く持ちやすく感じられます。
ヌメ革は日焼けします。室内の明かりでも結構焼けてきますので、数年も経てば良い色に仕上がりはじめるでしょう。
手にした時から使う人とともに成長をはじめるトランク。30年後50年後、後世まで受け継がれる物作りの技とともに伝えていきたい逸品です。
トップへ戻る>
世界最高品位 H氏の別注トランク:匠の仕事3へ
|